黒き藥師と久遠の花【完】
 様々な町に流れ、自分で採った薬草を売りながら、仲間たちの情報を集めた。だが、手がかりは未だつかめずにいる。

 姉たちを連れて行ったのは北方の兵士だが、連れて行かれた場所が北方とは限らない。
 だから今は、噂を聞いてすぐ移動できるように、大陸のほぼ中心にあるこの村を拠点とし、薬師として生計を立てていた。

(ずっと情報を集めているけど、姉さんたちの話は全く聞かない。少しでも話があれば、今すぐにでも飛んで行きたいのに)

 目を閉じると、みなもの瞼に凛として気品のある、四つ違いの姉の姿が浮かんでくる。

 両親が仕事で里を離れることが多かったので、姉は母親代わりとなって面倒を見てくれた。いつも優美で温かな笑みを浮かべて。

 いずみ姉さんに会いたい。
 みなもの胸奥に、郷愁の思いがにじむ。

(……生きていればいいけれど)

 ここで思いを馳せたところで、どうにもならない。
 みなもはため息を一つ吐き、気を取り直してから納屋を閉めた。





 小屋へ戻ると、床に座ったままの浪司が振り返った。
 その姿が熊っぽく見えて、みなもは思わず吹き出す。

「おい、みなも。なんで笑うんだぁ?」

「あはは……ゴメン、気にしないで。これがお望みの薬だけど、これだけで足りる?」

 みなもがいくつか小瓶を手渡すと、浪司は大きな手でつかみ取り、立ち上がる。

「凍傷用のヤツは一つで十分だ。今、北方は騒がしいからな。長くいるつもりはねぇ」

 騒がしい?
 鼓動が高まるのを感じながら、みなもは努めて自然に尋ねてみた。

「騒がしいって、何が起きているの?」

「最近バルディグって国が、あちこちに戦争を吹っかけているんだ。小さな国だから、領土拡大に勤しんでるってところだろうな」
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