黒き藥師と久遠の花【完】
「久しぶりだな。せっかくの再開だ、そんな怖い顔するなよ」

「それは無理な注文だな……ナウム」

 もう二度と会いたくないと思っていた男。
 詰め寄って胸ぐらを掴みたい思いでいっぱいだったが、どうにか己を抑え、みなもはナウムの向かい側に座る。
 口を開いて出てきた自分の声は、今までに聞いたことがないほどの低さだった。

「余計な話はしたくない。本題に入らせてもらう」

 ナウムが口端を上げ、嬉しげに目を細める。

「せっかくの逢瀬なんだ、そんなに焦るなよ。……と言いたいところだが、まあ無理な話か。ほら言ってみろよ、今だったら何でも答えてやるぜ」

 相変わらずこちらを見てくる目が色めき立っていて、みなもに虫酸が走る。
 露骨に嫌な顔をしそうになるが、ナウムの機嫌を損ねて席を立たれる訳にもいかず、みなもは無表情のまま懐から手紙を出し、机に置いた。

「この手紙はお前が書いたのか?」

「ああ、そうだ。間違いなく、オレが心を込めて書いた恋文だ」

 そんな名目で手紙を受け取ったことを思い出し、みなものこめかみが微痛でうずく。

 書かれていた内容は、とても簡素な要件と待ち合わせ場所のみだった。
 そして、自分にとって一番心を揺さぶられる言葉があった。

 みなもは目尻を上げ、ナウムを睨んだ。

「どうしてお前が……俺の姉さんの名前を知っているんだ!」

 初めて手紙を目にした時、頭の中が真っ白になった。

『いずみのことを教えて欲しければ、オレに会いに来い』

 仲間の、しかも最愛の姉の名をこんな手紙で見ることになるとは思いもしなかった。

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