黒き藥師と久遠の花【完】
 姉の名を自分から他の人間に言ったことはない。
 ザガットの宿屋でレオニードに寝言を聞かれてしまったが、彼の口の堅さは自分がよく分かっている。

 つまり、前々から姉のことを知っていなければ書けない。

 警戒と戸惑いを載せたみなもの問いに、ナウムは喉でくぐもった笑いを零した。

「ククク……簡単な話だ。オレはいずみのことを昔から知っている。そして、今どこにいるのかも知っている。元気でやってるぜ」

 ナウムの言葉を聞いて、みなもの顔に不覚にも微笑みが出てしまった。

 大好きな姉が生きている。
 離れ離れになってから、ずっと知りたかったことだった。

 喜ぶ顔をナウムに見られまいと、みなもはその場に俯き、こみ上げてくる喜びに破顔した。

「よかった……本当によかった」

 この話をナウム以外の人間から聞きたかったところだが、それでも嬉しさが止まらない。

 どうにか自分の気持ちを落ち着かせようとしていると、ナウムから「なあ」と声をかけられた。
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