黒き藥師と久遠の花【完】
「オレがいずみに会わせてやろうか?」

 思わずみなもの頭が上がり、虚を突かれて呆然となった顔が露になった。

「本当に、会わせてくれるのか?」

「いずみもお前のことを心配してたからな、できれば会わせてやりたいと思っていたんだ。ただ――」

 上機嫌に一笑してから、ナウムの笑みが不敵なものに変わる。

「――オレはお人好しじゃないんだ。見返りがなければ、残念だがいずみに会わせる訳にはいかねぇな」

 みなもは軽く顎を引き、顔つきを引き締める。

「条件はなんだ?」

「簡単なことだ、オレのものになれ」

 この男のことだから、何となく察しはついていたが……。

 みなもが呆れていると、ナウムは机に肘を置き、身を前に乗り出した。

「本音を言えば、オレはお前のすべてが欲しい。その体も、毒の知識も、何もかもな」

 こちらの体を舐め回すように見てくる視線に耐えられず、みなもはわずかに視線を逸らした。

「それだったら、この話はなしだ。自力で姉さんを探し出して、俺から会いに行く」

「まあまあ、最後まで話を聞けよ。オレはお前をものにしたいが、力づくで押し倒したところで、お前は毒で抗おうとするだろ? 人に痛い目を見せるのは好きだが、痛い目に合うのは嫌だからな」

 ナウムはそう言うと、顔から笑みを消した。

「みなも、オレの部下になれ。そしてオレと共に、いずみを守ってくれ」

 ここで姉の名前を出されるとは思わず、みなもは首を傾げる。

「姉さんを守るって……どういうことだ?」

「言葉通りさ。詳しいことは、一緒にバルディグへ行った時に教えてやるよ」

 さらに尋ねようとしかけて、みなもは口を閉ざす。

 これ以上は、どれだけ粘っても教えてくれない気がする。
 おそらく事情があることをちらつかせて、少しでもこちらの興味を引きたいのだろう。
 
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