黒き藥師と久遠の花【完】
 姉が、『守り葉』として守るべき人がバルディグにいる。
 もうこれだけの事実で、自分の答えは決まっている。

 決まっているのに、会いたいのに。
 ここを離れたくない――。

 答えに詰まっていると、ナウムが鼻で笑いながら、椅子の背もたれへ寄りかかった。

「この場ですぐに答えを出せっていうほど野暮じゃねーよ。少し考える時間をやる……まあオレも忙しい身だからな、明日の朝にバルディグへ発つ。それまでにここへ来なかったら、いずみと会うのは諦めるんだな」

 返事をする気になれず、みなもは無言で立ち上がり、部屋から出ようとする。

 扉を開ける間際、背後から「いすみに悲しい思いをさせんなよ」とナウムが追い打ちをかけてくる。

 悔しいが、認めるしかなかった。
 この男はこちらの性格も考えも、よく理解している。

 ナウムの手の平で踊らされているという感覚が、全身へ麻酔がかかるように広がっていく。
 それが体の上を這いずり回り、言いようのない不快感を与えてくる。

 もしナウムについていくとすれば、ずっとこんな思いをするのかと、みなもは顔をしかめた。
< 113 / 380 >

この作品をシェア

pagetop