黒き藥師と久遠の花【完】
求めていた情報ではないが、もし北地に姉たちがいたとしたら大丈夫だろうか? 戦渦に巻き込まれていないだろうか?
不安で胸は張り裂けそうだが、みなもは平静を装い、「大変だね」と話を流す。
「そんな時に北へ行くんだ。物好きだな」
「今の時期でないと食えねぇ珍味があるんだ。ワシは食い物のためなら、命をかける!」
相変わらず自分の欲に正直な人だ。そんな彼が羨ましくもある。
苦笑しながら、みなもは棚へ行き、傷薬を手に取って浪司に渡した。
「ちゃんと無事に顔を見せて、冒険の話を聞かせてよ。もう一つ傷薬、おまけするからさ」
大切な商売相手でもあり、情報源だ。彼に何かあったら困る。
こちらの思惑に気づくことなく、浪司は上機嫌に歯を見せて「ありがとさん」と笑った。
タタタタッ。
突然、小屋へ全力で駆けてくる足音がした。
バンッ!
元気がいい……を通り越して、荒々しく扉が開く。
さっき薬を渡した少年が、激しく息を切らせながら現れた。
「みなも兄ちゃん、大変だ!」
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
「村の入口に、傷だらけの異人が倒れているんだ! 全然動かないし、怖くて――」
一刻を争う状態だ。
みなもは話の途中で駆け出し、小屋を飛び出る。
少し遅れて浪司の足音もついてくる。
少年の軽い足音もついてきたが、行きで力尽きたのか、足音は遠ざかっていった。
医者がいないこの村では、薬師の自分が医者代わりだ。この肩に人の命が乗っていると思うと、みなもの手に脂汗がにじんでくる。
(……いずみ姉さん)
おじけづく心を奮い立たせようと、みなもは姉の姿を思い出す。
何も語らない残像でも、勇気づけられた。
不安で胸は張り裂けそうだが、みなもは平静を装い、「大変だね」と話を流す。
「そんな時に北へ行くんだ。物好きだな」
「今の時期でないと食えねぇ珍味があるんだ。ワシは食い物のためなら、命をかける!」
相変わらず自分の欲に正直な人だ。そんな彼が羨ましくもある。
苦笑しながら、みなもは棚へ行き、傷薬を手に取って浪司に渡した。
「ちゃんと無事に顔を見せて、冒険の話を聞かせてよ。もう一つ傷薬、おまけするからさ」
大切な商売相手でもあり、情報源だ。彼に何かあったら困る。
こちらの思惑に気づくことなく、浪司は上機嫌に歯を見せて「ありがとさん」と笑った。
タタタタッ。
突然、小屋へ全力で駆けてくる足音がした。
バンッ!
元気がいい……を通り越して、荒々しく扉が開く。
さっき薬を渡した少年が、激しく息を切らせながら現れた。
「みなも兄ちゃん、大変だ!」
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
「村の入口に、傷だらけの異人が倒れているんだ! 全然動かないし、怖くて――」
一刻を争う状態だ。
みなもは話の途中で駆け出し、小屋を飛び出る。
少し遅れて浪司の足音もついてくる。
少年の軽い足音もついてきたが、行きで力尽きたのか、足音は遠ざかっていった。
医者がいないこの村では、薬師の自分が医者代わりだ。この肩に人の命が乗っていると思うと、みなもの手に脂汗がにじんでくる。
(……いずみ姉さん)
おじけづく心を奮い立たせようと、みなもは姉の姿を思い出す。
何も語らない残像でも、勇気づけられた。