黒き藥師と久遠の花【完】
 村の入口へ行くと、道の脇にうつ伏せている人がいた。

 体躯は大きく、背中も広い。
 男性だということは見るに明らかだ。その足元には彼の荷物と思しき革袋が横たわっている。

 みなもは足を止める間もなく、即座に駆け寄ろうとした。

 彼の頭が見えた。
 その瞬間、みなもはその場に固まる。

 背中まで伸びた銀髪に、土で汚れた白い肌。
 紛れもなく北方の人間だ。

 見たところ、歳は二十四、五くらいだろう。
 八年前に兵士となって、村を襲ったとは考えられないが……わかっていても、こみ上げてくる怒りや憎しみは止まらない。

 みなもは腰に挿していた護身用の短剣を手にしながら近づき、表情なく男を見下ろす。

 と、追いついてきた浪司に肩を叩かれた。

「どうした? もうくたばってんのか?」

「い、いや……」

 みなもは我に返ると、しゃがんで男の手首をつかむ。

 ゆっくりだが、生きようとする力強い脈がある。

 頭から順に男を見ていくと、男の左袖が血に塗れていることに気づく。かなり時間が経っているのか、乾いて赤黒くなっている。
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