黒き藥師と久遠の花【完】
(放っておいたら、間違いなく死ぬな)

 こっちだって、北方の人間に村を荒らされた挙句、多くの仲間を殺された。

 彼を助ける義理なんてない。

 八年経った今も、これからも。自分は彼らを恨み続けるだろう。
 それに、本来なら自分は人を癒すべき者ではない。むしろ『久遠の花』を守るために、人を傷つける者だ。

 みなもがそう思った矢先――。

『貴女が人を傷つける姿なんて、見たくないわ』

 ふと自分が「『守り葉』になる」と言った時、姉に言われた言葉を思い出す。

 見殺しにするのは簡単だ。
 でも、彼を見殺せば、姉との繋がりを完全に断ち切ってしまう気がした。

(もしかすると、彼から姉さんたちの情報を聞けるかもしれない。助ける意味はあるな)

 そう己に言い聞かせ、みなもは熱くなった頭を冷ましていく。
 理性が戻ったところで、浪司を見上げた。

「まだ息がある。俺の家へ連れて行くから、手伝ってくれないか?」

「よっしゃ、任せておきな」

 浪司は、ぺっ、ぺっ、と手に唾を付け、一気に男を担ぎ上げた。傷に響いたのか、男は眉間に皺を寄せてうなる。

 露になったのは、鼻筋の通った凛々しい顔立ちの青年だった。が、険しく気むずかしそうな顔つきをしている。まだ話もしていないのに、無愛想な印象を受ける。口も堅そうだ。

(……話、聞き出せないかもしれない)

 助けるのをちょっとだけ後悔しながら、みなもは彼の荷物を持ち上げ、自分の小屋へと走り出した。
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