黒き藥師と久遠の花【完】
 日も落ち始め、梟の声が外から聞こえてきた頃。

 みなもは椅子に座り、ランプで照らしながら男の傷を凝視していた。

 左腕から胸にかけ、剣で斬られたような傷。見たところ、さほど深い傷ではない。軽く縫合した今、数日もすれば抜糸できるだろう。

 気になるのは男の衰弱した具合だ。
 どこか打撲したのだろうかと全身を確かめたが、骨折や青アザは見当たらなかった。
 それに、傷口の肉が僅かに溶けている。

 彼を斬った剣に、毒が塗られていたのだとすぐに察しはついた。
 取り敢えず解毒の軟膏を塗っておいたが、徐々に精気が抜けているように見えた。

(念のために、もう少し強力な解毒剤を使ったほうが良さそうだ)

 みなもは常に懐へ忍ばせてある、特別な解毒剤が入った小瓶を取り出す。

(どんな毒かは知らないけど、この解毒剤なら大抵の毒には効くはず)

 指で蓋を摘んで手早く小瓶を開けると、液状の薬を口に含む。そのまま男の口元まで顔を寄せた。

 そして唇を重ね、薬を流しこむ。
 男は小さくうめいた後、喉を動かした。

(後は彼の体力と、気力次第だな)

 みなもが薬で濡れた唇を拭っていると、背後から「オレには無理な芸当だ」と、浪司のため息交じりの声が聞こえてきた。

「みなも、お疲れさん。これでも飲んどけ」

 浪司はみなもの隣に並ぶと、木のコップを差し出す。受け取って口を付けると、とても甘く優しい温もりが体を労ってくれた。
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