黒き藥師と久遠の花【完】
「ありがとう、浪司。これは何かな?」

「ワシ特製の蜂蜜湯だ。疲れが取れるぞ」

 胸を張る浪司へ、みなもは呟く。

「……やっぱり熊だ」

「んん? なんか言ったか?」

 そそくさと、みなもは浪司から視線を外す。

「いや……治療、手伝ってくれて助かったよ。こんな大きな体、俺一人で動かせないから」

 みなもは再び男へ視線を落とす。ただでさえ大柄なのに、鍛えられた筋肉がさらに彼を重くしていた。

 おかげで彼の体をきれいにするのは一苦労だった。男の力がなければ、彼は動かせられなかった。

 こんな時、自分は女なのだと自覚する。
 あまりにも非力で、一人では生きていけない弱い人間。

 もっと強くならなければ。
 みなもがそう思った矢先、浪司が好奇の目で男を覗き込んだ。

「なあ、しばらくここにいてもいいか? どうしてあんな所にブッ倒れてたのか、気になって気になって」

 面白がっている気はするが、人手は欲しいところだ。
 それに、この男が山賊などの類で、回復すれば襲ってくる可能性もあるだろう。
 みなもは浪司を横目で見ると、軽く眉を上げた。

「交代で彼の様子を見てくれるならいいよ」

 軽く目を見開いてから、浪司はぎこちなく片目をつむった。

「言うと思ったぜ、まあお安い御用だ。どっちが先に休む? ワシはどっちでもいいぞ」

「そうだな――」

 みなもが話そうとした途中。男が身じろぎ、目を僅かに開けた。
 澄んだ薄氷の瞳が覗く。
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