黒き藥師と久遠の花【完】
「……そこにいるのは、誰だ?」

 ようやく聞き取れる程のかすれ声。一言話すのも辛いのだろう、息も絶え絶えだ。

「安心して、俺はこの村の薬師。貴方の治療をしている」

 警戒されている気配が、ひしひしと伝わってくる。

 余計な緊張は傷にさわるだけだ。
 みなもは顔を近づけ、努めて優しく笑いかける。

「俺はみなも。貴方の名は?」

「……レオニード」

「事情は知らないけど、大変だったね。今はしっかり休んで、体力を回復させないと」

 熱を出した時に姉がしてくれたように、みなもはレオニードの頭を撫でる。こうされると安心して、眠りについたものだ。

 しばらくレオニードの息は荒かったが、次第に弱まり、寝息に変わっていく。 

 眠ったのを見計らい、みなもは顔を上げる。
 と、なぜか浪司は瞳を泳がし、こちらに目を合わせようとしなかった。

「どうかした?」

「あー、なんだ、その……見たらいけない物を見た気がする」

 たまに浪司はよく分からないことを言ってくる。理解できず、みなもは短く息をついた。

「浪司、疲れているんじゃないか? 先に休んだほうがいいよ」

「おお、そうさせてもらうぞ。一眠りして頭を冷やしてくる」

 浪司は「調子狂うぜ」と眉間を揉みながら、部屋を出ていく。

 そんなに変なことをしただろうか? みなもは首を傾げて見送ると、椅子に座り直してレオニードを見つめる。

< 17 / 380 >

この作品をシェア

pagetop