黒き藥師と久遠の花【完】
 複雑な心境だ。意識が戻ってよかったと思う半面、彼を見て噴き出たわだかまりは、未だに消えない。
 この二つが反発しあって、胸の奥が気持ち悪くて仕方がない。

(きっといずみ姉さんなら、何の迷いもなく彼を助けるだろうな)

 誰にでも優しかった姉。
 何より『久遠の花』に強い誇りを持っていた。

 それに比べて、自分は私怨の塊だ。
 彼を見ていると、自分の汚いところが炙り出される気がした。

 死なないのなら、早く回復して目の前から消えて欲しい。
 そのために全力で治療してやろう。

 みなもが腹をくくると、荒ぶる心はひとまず落ちついてくれた。

(大丈夫、彼を送り出すまで耐えられそうだ……自分の心を殺すのは、慣れているから)

 フッ、とみなもは苦笑を浮かべる。
 こんなことを考えているくせに、『久遠の花』の真似事をしている自分が滑稽に思えた。





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