黒き藥師と久遠の花【完】
六章
夕日が沈んだバルディグの空は、瞬く間に闇色のシーツを広げていく。
繁華街に軒を連ねる店々は明かりを灯し、窓から溢れる光で行き交う客を呼び込んでいた。
そんな中、老舗の宿屋に併設された酒場は連日のように人で賑わっていた。夜は始まったばかりなのに、席はすべて埋まっていた。
男たちの談笑が店内に溢れ、それを耳に入れてさらに気分は高揚し、新たな酒を口に流し込んでいく。
しかし、食堂の角にあるテーブルに座る、短髪の赤毛の青年は違った。
出された酒と料理に手を付けず、ただジッとテーブル上で揺らめくロウソクの火を見つめていた。
「よう、兄ちゃん。せっかくの料理が冷めちまうぜ。どうしたんだよ?」
隣の席で仲間たちと盛り上がっていた中年の男が、赤毛の青年に話を振ってくる。
青年はわずかに困惑の色を浮かべ、「人を待っているんです」と低く小さな声で答えた。
男は「辛気くせぇヤツだな」とぼやいた後、急ににんまりと笑った。
「ひょっとして女でも待ってんのか? お前はオレほどじゃねーが、かなり男前だからな。相手に不自由しないだろ? どんな美人さんだ?」
青年の耳がぴくりと動き、鋭い目を細くする。
ずっと胸の内でくすぶっていた怒りが吹き出しそうになったが、息をついてどうにか抑え込むことができた。
繁華街に軒を連ねる店々は明かりを灯し、窓から溢れる光で行き交う客を呼び込んでいた。
そんな中、老舗の宿屋に併設された酒場は連日のように人で賑わっていた。夜は始まったばかりなのに、席はすべて埋まっていた。
男たちの談笑が店内に溢れ、それを耳に入れてさらに気分は高揚し、新たな酒を口に流し込んでいく。
しかし、食堂の角にあるテーブルに座る、短髪の赤毛の青年は違った。
出された酒と料理に手を付けず、ただジッとテーブル上で揺らめくロウソクの火を見つめていた。
「よう、兄ちゃん。せっかくの料理が冷めちまうぜ。どうしたんだよ?」
隣の席で仲間たちと盛り上がっていた中年の男が、赤毛の青年に話を振ってくる。
青年はわずかに困惑の色を浮かべ、「人を待っているんです」と低く小さな声で答えた。
男は「辛気くせぇヤツだな」とぼやいた後、急ににんまりと笑った。
「ひょっとして女でも待ってんのか? お前はオレほどじゃねーが、かなり男前だからな。相手に不自由しないだろ? どんな美人さんだ?」
青年の耳がぴくりと動き、鋭い目を細くする。
ずっと胸の内でくすぶっていた怒りが吹き出しそうになったが、息をついてどうにか抑え込むことができた。