黒き藥師と久遠の花【完】
どれだけ鏡を見ても、映る姿は別人だ。
これならナウムたちの目を誤魔化せると思っていた。しかし、
「明日は口の中に綿を入れて、顔型も変えておけよ。あと、常に目を細めていたほうがいいだろうな。相手から瞳が見えないほうが、こっちの動揺やら感情も隠しやすい。特にナウムのヤツは、そういったことにも目ざといだろうからな」
さらに浪司から変装の指示を出され、レオニードは閉口する。
彼の正体や事情はもう聞かされている。
そして詳しく語られなくとも、どれだけ難儀な人生を送ってきたのか十分に想像はつく。
想像はつくが、どうしても思ってしまう。
(変装といい、敵地へ潜る段取りといい……慣れすぎだ、浪司)
心の中でレオニードが突っ込んでいると、浪司は自分のベッドに腰かけた。
「レオニード、今日買ってきた物を見せてくれ」
部屋の隅に置いていた荷袋を手にすると、レオニードは浪司と向かい合う形でもう一つのベッドへ座る。
袋に手を入れてまさぐると、目的の物を取り出した。
現れたのは、真新しい鉄の剪定バサミ二つ。
一つを浪司に手渡すと、彼は持ち手を掴み、ハサミの刃を凝視した。