黒き藥師と久遠の花【完】
「おっ、よく切れそうなハサミだ。これなら木の剪定がやりやすそうだ……ナウムの所の庭じゃなかったら、気持ちよく使えるのになあ」
忌々しい名を聞いて、レオニードは眉間に皺を刻む。
今、みなもはナウムの屋敷にいる。
おそらく仲間のことを盾に取り、手元へ置いているのだろう。
命は奪わないだろうが、あの男のことだ。言い寄って彼女を追い詰め、隙あらば自分のものにしようとするのは容易に想像がつく。
数日前に市場でみなもと会った時、どれだけ彼女を抱き締めて、バルディグから連れ出してしまいたかったことか。
ただ、ここがナウムの本拠地である以上、監視の目も厳しいはず。
自分たちの正体に気づき警戒されてしまえば、みなもと接触することが難しくなる。
みなもには、聞かなければいけないことがある。
そのために変装し、庭師としてナウムの屋敷に潜り込み、みなもに近づくという作戦を取ることにした。
一時の感情だけで迂闊な行動をとる訳にはいかない。
そう頭では分かっていても、割り切れるものではないが。
「さて、と。それじゃあ明日の予定だが――」
浪司の声でレオニードは我に返り、一言も聞き漏らすまいと身を乗り出す。
今までにない真剣な面持ちで、浪司は言葉を続けた。
「仕事は昼過ぎから。庭師の親方たちと合流して、ナウムの庭の手入れに同行させてもらう。前々からの打ち合わせ通り、ワシらは田舎から出稼ぎに来た庭師の祖父と孫ってことにしてあるから、しっかり演じてくれよ」
レオニードが重々しく「分かった」と頷いて見せると、浪司の眼差しがわずかに柔らかくなった。
忌々しい名を聞いて、レオニードは眉間に皺を刻む。
今、みなもはナウムの屋敷にいる。
おそらく仲間のことを盾に取り、手元へ置いているのだろう。
命は奪わないだろうが、あの男のことだ。言い寄って彼女を追い詰め、隙あらば自分のものにしようとするのは容易に想像がつく。
数日前に市場でみなもと会った時、どれだけ彼女を抱き締めて、バルディグから連れ出してしまいたかったことか。
ただ、ここがナウムの本拠地である以上、監視の目も厳しいはず。
自分たちの正体に気づき警戒されてしまえば、みなもと接触することが難しくなる。
みなもには、聞かなければいけないことがある。
そのために変装し、庭師としてナウムの屋敷に潜り込み、みなもに近づくという作戦を取ることにした。
一時の感情だけで迂闊な行動をとる訳にはいかない。
そう頭では分かっていても、割り切れるものではないが。
「さて、と。それじゃあ明日の予定だが――」
浪司の声でレオニードは我に返り、一言も聞き漏らすまいと身を乗り出す。
今までにない真剣な面持ちで、浪司は言葉を続けた。
「仕事は昼過ぎから。庭師の親方たちと合流して、ナウムの庭の手入れに同行させてもらう。前々からの打ち合わせ通り、ワシらは田舎から出稼ぎに来た庭師の祖父と孫ってことにしてあるから、しっかり演じてくれよ」
レオニードが重々しく「分かった」と頷いて見せると、浪司の眼差しがわずかに柔らかくなった。