黒き藥師と久遠の花【完】
「あんまり気負うな。お前さんは黙々と仕事しながら、屋敷の中を把握してくれればいい。ワシは何とかみなもと接触して、夜に会いに行くことを伝える。その後にどうするのかは、みなもの話次第だな」

 おもむろに浪司は両手を組んで力を込めると、少し俯いて顔に影を作る。
 白く染められた髪のせいか、人生に疲れ果てた老人のように見えた。

「ここに『久遠の花』や『守り葉』がいるのか、一体誰が毒を作っているのか……やっと分かる。長かったなあー、ここまで来るのに」

「浪司……」

「あともう少しだけ、お前さんたちには頑張ってもらうぞ。面白くないだろうが、みなもを連れ出すのは、ここでやるべきことを終えてからだ」

 正直なところ、一秒でも早くナウムからみなもを引き離したい。
 ただ、みなもが心置きなくヴェリシアへ戻るためには、やらなければいけないことが残っている。
 ひいてはそれがヴェリシアのためにもなる。

 レオニードは深く息を吸い、己の中に覚悟をためていく。
 そして拳を強く握りしめた。

「……必ず終わらせてみせる。俺の命に代えても」

 慌てて浪司がこちらへ向き直ると、やれやれと言わんばかりに苦笑を浮かべた。

「おいおい、お前さんに死んでもらったら困る。これからみなもと夫婦になって、子だくさん家族を作ってもらうんだからな」

 からかうような口調だが、これが浪司の切実な願いだというのはよく分かった。
 レオニードもつられて苦笑すると、「ああ、そうだな」と大きく頷いた。
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