黒き藥師と久遠の花【完】
「お前さんは庭師になりたてのヒヨっ子なんだ。花壇の手入れしながら、ワシらの仕事をよーく見ておけよ」

 言いながら腰に挿していた剪定バサミを手に取ると、作業を始めた親方に寄っていった。

 ここで突っ立っている訳にもいかない。
 レオニードは視線を下げて花壇を見渡すと、盛りを過ぎて萎れかかっている花を見つけ、剪定バサミで丁寧に摘み取っていく。
 作業をしながらも中の間取りを確かめ、たまに通りかかる下男や侍女に怪しまれないよう、花の手入れも怠らない。

 しばらくして、浪司が何本か開きかけの花を手にして、侍女に話しかける。
 声は聞こえないが、せっかくだから部屋に花を活けたいと言っているのだろう。
 すぐに侍女は表情をほころばせると、浪司を連れて南側の扉の向こうへと姿を消した。

(ここまでは予定通りだな。無事にみなもと会えればいいが……)

 平然とした表情を作っていたが、気を抜くと不安が顔へ出そうになる。

 少し作業に専念して、集中力を高めよう。
 レオニードがそう思った矢先――。

「おい、ちょっと話がある。こっちに来てくれ」

 忘れもしない男の声。
 振り向くと、いつの間にか現れたナウムが、親方に声をかけながら手招きをしていた。
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