黒き藥師と久遠の花【完】
 ナウムは薄く微笑むと肩を抱き、みなもを引き寄せた。
 その手を払うどころか嫌がる気配も見せず、みなもはクスクスと小さく笑う。

「貴方が怒るようなことをしなければ、私は怒りませんよ。それとも、何か私が怒るような隠し事でもあるんですか?」

「ある訳ねぇだろ。やっとお前がここへ来てくれたのに、怒らせて逃げられるなんて嫌だからなあ」

 彼女の髪を指で梳きながら、ナウムが顔を近づけて口付けようとする。
 近づいてくる顔から逃げる素振りは見せず――間近になったところで、みなもは人差し指でナウムの唇に優しく当てた。

「人前で見せることじゃありません。二人きりでも、恥ずかしくて隠れてしまいたいくらいなのに……」

 少し瞳を潤ませてから、みなもが恥ずかしそうに頬を赤くして目を伏せる。
 あまりにも自然な、恋人へ向ける表情と恥じらいだった。

 何か事情があって、ナウムを油断させるために演じているのだろう。
 分かっている。みなもは己の心を隠すことが得意だ。だが――。


 ――本当に、これは演技なのか?


 困惑するレオニードの前で、二人は親方を交えて談笑を始める。
 ナウムに話しかけられる度、みなもは嬉しそうに微笑み、彼に熱を帯びた視線を送る。
 事情を知らなければ、仲睦まじい恋人同士にしか見えなかった。

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