黒き藥師と久遠の花【完】
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夜も深まり、月はバルディグを囲む山々に隠れてしまう。
淡い光すら届かなくなり、街を包む闇はより一層濃くなる。
そんな闇に紛れ、ナウムの屋敷の裏庭を歩いていく者がいた。
足音を消し、慎重に辺りを見回しながら、林に面している塀へと近づいていく。
塀の手前に生えている木の幹に手を置くと、裏庭を振り向き、辺りの気配を探る。
……大丈夫、誰も来ていない。
彼の者は身軽に木を登ると、一旦塀の上に乗った後、敷地の外へ着地する。
そして漆黒の中、木にぶつからないよう、ゆっくりと林の奥へ進んでいった。
しばらく歩いていくと、遠くにぼんやりとした明かりが見える。
それと同時に、ほんのり飴を溶かしたような甘い香りがした。
どうやら近くまで来たらしい。
今にも走り出したい気持ちを抑えつつ、彼の者は明かりのほうへと進んでいく。
次第に明かりは強くなり、赤々と燃える焚き火が目に入った。
だが、周りに人の姿はない。
どこにいるのだろうと、辺りをうかがっていると――。
――グイッ。
強く腕を引かれたかと思うと、急に体が締めつけられる。
突如として視界が暗くなり、驚きで体が強張る。
しかしすぐに緊張は解け、間近になった彼の胸元を強く掴んだ。
夜も深まり、月はバルディグを囲む山々に隠れてしまう。
淡い光すら届かなくなり、街を包む闇はより一層濃くなる。
そんな闇に紛れ、ナウムの屋敷の裏庭を歩いていく者がいた。
足音を消し、慎重に辺りを見回しながら、林に面している塀へと近づいていく。
塀の手前に生えている木の幹に手を置くと、裏庭を振り向き、辺りの気配を探る。
……大丈夫、誰も来ていない。
彼の者は身軽に木を登ると、一旦塀の上に乗った後、敷地の外へ着地する。
そして漆黒の中、木にぶつからないよう、ゆっくりと林の奥へ進んでいった。
しばらく歩いていくと、遠くにぼんやりとした明かりが見える。
それと同時に、ほんのり飴を溶かしたような甘い香りがした。
どうやら近くまで来たらしい。
今にも走り出したい気持ちを抑えつつ、彼の者は明かりのほうへと進んでいく。
次第に明かりは強くなり、赤々と燃える焚き火が目に入った。
だが、周りに人の姿はない。
どこにいるのだろうと、辺りをうかがっていると――。
――グイッ。
強く腕を引かれたかと思うと、急に体が締めつけられる。
突如として視界が暗くなり、驚きで体が強張る。
しかしすぐに緊張は解け、間近になった彼の胸元を強く掴んだ。