黒き藥師と久遠の花【完】
「レオニード……良かった、無事で……」
嗚咽が混じりそうになり、みなもは唇を噛んで震えてしまう喉を抑えようとする。
ぎゅう、と背中に回された腕の締めつけがさらに強まった。
「それは俺の台詞だ。……もう勝手に俺から離れないでくれ」
かすれた声でレオニードが囁くと、それに合わせて彼の胸から振動が伝わる。
ひどく心配させてしまったと気を重くする一方で、まだ心配してくれることが嬉しい。
勝手にナウムの元へ向かった挙句に、わざわざここまで来てくれた二人の前で、あんなやり取りを見せつけて――。
裏切られたと、愛想が尽きたと言われても当然のことをしたのに。
もっとこのままでいたかったが、話を先延ばしにする訳にもいかない。
レオニードが腕の力を弱めたのを見計らい、みなもは少し身を離して彼を見上げた。
赤く染められた短髪、浅黒い肌……今はいつもの色に戻っているが、昼間は瞳が茶色になっていた。
ここまで姿を変えて会いに来てくれたのだと思うだけで、みなもの瞳は潤みそうになった。
話したいことが沢山あるのに、いざとなると言葉が出てこない。
しばらく何も言わずにレオニードと見つめ合っていると、
「お前さんら……いちゃつくなら、話が終わってからじっくりやってくれ」
横から緊張感のない、からかいの色を乗せた声がした。
我に返って声がしたほうを振り向くと、浪司がにっかり歯を出して笑っていた。
いつもと変わらない顔にホッとしつつも、みなもはわずかに身構える。
レオニードがここまで来たのは分かる。
けれど、浪司がお人好しというだけで、危険を冒してまでここへ来たとは考えられない。
今まで一緒に行動していて、何か目的があるのだろうとは思っていたけど……。
こちらの警戒が伝わったのか、浪司は「安心しろ、ワシは敵じゃない」と苦笑を漏らした。
「取り敢えずあそこに座って、みなもの話を聞かせてくれ」