黒き藥師と久遠の花【完】
 浪司に促され、三人は焚き火を囲んで地面に腰かける。
 パチッ、パチッ、と焼かれる木の弾ける音を聞きながら、みなもは二人の顔を交互に見た。

「二人とも……わざわざ来てくれたのに、傷つけるようなことをしてごめん。腕の手当てはしたの?」

「ああ、君が浪司に渡していた傷薬を塗らせてもらった。もう痛みは引いている」
 
 レオニードが小さく頷き、みなもの目をじっと見つめてきた。

「俺たちよりも、みなものほうが大変だったんじゃないか? ずっと暗示にかかったフリを続けて――」

 今までの出来事が次々と脳裏に浮かび、みなもの気が遠のきそうになる。

 すべてが夢だったと思いたいのに、体があの生々しい感触を覚えている。
 熱い吐息。
 体に這わされた手。
 呪いをかけるように耳元で囁かれた睦言。そして――。

 忘れようにも忘れさせてくれない。
 逃れられないなら、いっそ自分の体ごと消してしまいたかった。

 みなもは目を伏せ、大きく息をついてから口を開いた。

「本当はナウムの暗示で、俺は完全にアイツに支配されたんだ。自分の意思を持たない、ナウムの命令に忠実な人形に……でも、これのおかげで意識を取り戻すことができたんだ」

 そう言いながら懐を探り、手にした物を二人に見せる。
 焚き火の明かり照らされたそれは、星の瞬きのように静かな輝きを放っていた。

「首飾り? それでどうやって暗示を解いたんだ?」

 浪司に尋ねられると、みなもは微笑を浮かべて首飾りの石を指で撫でた。

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