黒き藥師と久遠の花【完】
 一瞬、みなもは自分の耳を疑う。

 昔から知っていた? ……まったく浪司の顔に覚えがない。
 こんな特徴的な熊オジサン、一度見たら忘れないハズなのに。
 
 次第に驚きから訝しげな眼差しに変わっていく。
 その様を見て、浪司が苦笑を漏らした。

「知らなくて当然だ。隠れ里にいないことのほうがほとんどで、直接みなもと話したこともなかったからな。だが、ワシは遠目から元気に遊んでいるお前さんを見てたぞ」

「つまり、浪司は隠れ里に出入りしていた商人だったのか」

 一族の人数はそう多くない。だから『久遠の花』と『守り葉』の顔は全員覚えている。
 その記憶の中にいなければ、部外者である商人としか考えられなかった。

 しかし浪司は「いいや」と首を横に振った。

「ワシはお前さんと同じ『守り葉』――厳密に言えば、一族の中でも特別な『守り葉』だ」

「特別な『守り葉』?」

 首を傾げるみなもへ、浪司は大きく頷いた。

「昔、『久遠の花』は本当に不老不死を叶えることができた。その時の長に、ワシは一族の血と、薬の知識や技術を守ることを命じられて、不老不死を施されたんだ。さしずめ『常緑の守り葉』ってところだな」

 ……浪司が『守り葉』で不老不死?
 こんな状態で大嘘をつくような人間ではないとは思うが、にわかに信じられない。

 戸惑う心をどうにか抑えて前を見据えていると、浪司が「順を追って話そう」と言葉を続けた。
 
「ワシの元の名は李湟。陰で不老不死を狙う輩から一族を守り続けていたんだ。そうやって何百年も生きてきたんだが……八年前、里に出入りしていた商人の一人に騙されてな、洞窟の中に閉じ込められてしまった。どうにか外へ出られた時には、すでに隠れ里は襲われて、一族の屍だけしか残っていなかった」

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