黒き藥師と久遠の花【完】
 数日後の昼下がり。無理せず上体を起こせるようになったのを見計らい、浪司がレオニードへ好奇心をぶつけていた。

「なあなあレオニード。お前、どこから来たんだ?」

「…………」

「一体誰に襲われたんだ? 山賊か? まさか痴情のもつれで斬られたとか?」

「…………」

「しっかり鍛えてあるみたいだが、どっかの兵隊さんか?」

「…………」

 次から次へと浪司は質問するが、レオニードは何も答えず、沈黙を守り続ける。

 浪司に「なんでもいいから話せよ」と泣きつかれ、ようやく出した言葉は――「……何も言うことはない」のみ。

 どうやら彼に、愛想や気さくさは皆無らしい。
 薬研で木の実を挽きながら、みなもは二人のやり取りを眺める。埒があかないので、思わず話に割って入った。

「俺が話しても似たようなものだよ。必要最低限のことしか話さないんだから」

「可愛くないなー。そんなに付き合いが悪いってことは、お前、友達いないだろ?」

 一瞬ぴくりと、レオニードの耳が動いた。しかし口は開かない。

「だんまりってことは図星か? ガハハハ」

 膝を叩いて笑う浪司へ、レオニードが冷ややかな視線を送る。それも束の間、顔を背け、相手にしたくないと無言で伝えてきた。

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