黒き藥師と久遠の花【完】
 苦しげに浪司が眉根を寄せた。

「絶望しかなかったぞ、あの時は。だが、もしかしたら生き残りがいるかもしれないと、かすかな望みに縋ってあちこち捜し歩いて――三年前にようやく見つけたのが、お前さんだったんだ」

 ふと住処の村に初めて浪司がやって来たことを思い出す。
 ぶらりと小屋にやって来て、「これ買い取ってくれねぇか?」と人懐っこい笑顔で希少な薬草を見せてくれた。
 今考えると、あの時の笑顔はどこか安堵したような、救われたような顔だったように思う。

 みなもは目を細めて、わずかに口を尖らせる。

「そんな重要なことを、どうして今まで教えてくれなかったんだ?」

「悪かったな、本当は言いたかったんだが……お前さんの警戒心が強すぎたから、言っても逃げられるだけだと思って止めたんだ。その後からは、また各地を転々としながら他の生き残りを探して、たまにみなもの様子を見に小屋へ立ち寄っていた」

 確かに、今でさえこの事実を受け入れ切れないのに、初対面の相手から言われても絶対に信じなかっただろう。
 悪いことしてしまったと、みなもは表情を曇らせる。
 それを見て、浪司が「気にすんな、もう過ぎたことだ」と笑ってくれた。

 が、次の瞬間、再び浪司に緊張した顔に戻っていた。

「そして一年前に、バルディグの毒を知ったんだ。一族でなければ作れない毒……すぐ本腰を入れて調べたが、それらしいヤツは見つからん。だからワシは考えたんだ、どうすれば姿を拝めるかってな」

 ジッと浪司が眼差しを強め、こちらの瞳に視線をぶつけてくる。
 思わずみなもは息を呑み、次の言葉を待った。

「わざわざ自分の正体を匂わせているんだ、きっとそいつも仲間に会いたいと望んでいるハズ。だからワシはお前さんが動けば、あっちが何かしら行動に出てくると思ったんだ」

「それを考えた時に俺へ事情を話せれば、もっと楽に話が進んだかもね。……まあ、やっぱり俺が警戒して、浪司から逃げていた可能性は高いけど」

「そうそう、ここ最近の間で一番頭を使ったぞ。どうすればみなもに警戒されぬよう、ワシの正体を隠したままで、バルディグの毒に気づいてもらえるのか……そんな時に、ヴェリシアの人間がコーラルパンジーを探しているっていう話を聞いたんだ」
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