黒き藥師と久遠の花【完】
 浪司は静かに話を聞き続けているレオニードを、チラリと見やった。

「当初の予定では、ワシがレオニードと接触して、みなもの所へ連れて行くつもりだった。だが、先にバルディグの兵に見つかって毒にやられて……どうにかみなものいた村の近くまで運ぶことはできたんだが、ちょっと目を離した隙にコイツが動き出して、姿を見失っちまった」

 気まずそうにレオニードが目を細める。
 今までの話に驚いた様子はなく、すでに話を聞いていることが伺えた。

「すまない。毒を受けた後のことは覚えていないんだ」

「レオニードのことだ、無意識の内に先へ進もうとしたんだろう。で、探しても見つからんから、もう誰かの家に運ばれたかと思って先に小屋へ向かったんだ。……読みは外れたが、すぐに村の子供が知らせてくれて良かったぞ。そこから先は、みなもの知っての通りだ」

 浪司はそう言うと、長息を吐き出して背筋を正した。
 
「巻き込む形になった上に、辛い思いをさせてすまんかった。これがワシの真実……信じてもらえるか?」

 想像もしていなかった話だけに、気持ちの整理が追いつかず、みなもの頭は混乱し続ける。

 今すぐに話を丸々信じることができない。
 疑っているというより、信じることが怖い。
 こんな身近に仲間がいるなんて、自分に都合が良すぎる。

 でも、今まで見てきた浪司という人間は信じている。

 みなもはゆっくり頷くと、口端を上げて微笑んだ。

「うん。こんな近くに仲間がいてくれて、本当に嬉しいよ。前に冗談で『遠縁のオジサン』って言ったけど、まさか本当にそうだったなんて……」

「あー、そんなことも言ってたなあ。せめて今からでもオニーサンに直してくれよ」

「それは虫が良すぎるよ。話を聞く限り、むしろオジーサンじゃないか」

 互いに笑い合いながらも、みなもの目に涙がこみ上げそうになる。

 ずっと一人じゃなかったんだ。
 そう思うと嬉しくて、涙腺が緩みかけてしまう。

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