黒き藥師と久遠の花【完】
 少し気恥ずかしくなって視線を泳がせると、レオニードと目が合う。
 穏やかな眼差しを見せると、彼は「みなも」と名前を呼んだ。

「俺も浪司も、目的は君と同じ――バルディグに毒を作らせないこと。そのためにここまで来たんだ」

 レオニードが言い終わる前に、浪司が大きく頷く。

「王妃を相手にする以上、国を相手にすることになるが……ワシらの力を使えば、十分に生きて目的を果たせるハズだ。だから、ワシらにお前さんを手伝わせてくれ」

 すぐに返事ができず、みなもは二人を見つめる。

 命を賭けてでも、すべて一人で終わらせようと思っていた。
 だからナウムを相手にしながら、心を殺して機会を伺っていた。
 レオニードと一緒になれる未来も諦めて――。

 けれど、これからも生きられるというなら、生きていきたい。

 国を相手に無事でいられないかもしれない。
 しかし二人を危険な目に合わせると分かっていても、差し伸ばされた手を跳ね除けることはできなかった。

「……来てくれてありがとう。すごく心強いよ」

 生きられる可能性が見えてきた以上、全力で足掻きたい。
 みなもは二人に頭を下げると、目に力を込めた。

「願わくば、俺は藥師として生き続けたい。少しでも『久遠の花』に近づけるように、いつか俺が『久遠の花』となれるように……そのために二人の力を貸して欲しい」

 間髪入れず、レオニードと浪司が「もちろんだ」と声を揃えた。

 そしてこれからのことを話し合うために、どちらともなく焚き火を囲む円を縮める。
 口火を切ったのは浪司からだった。

「急な話で悪いが、決行を明日にしようと思っている。みなも、それで構わねぇか?」

 問われてすぐ、みなもは小刻みに頷く。
 これ以上ナウムに好き勝手されるのは耐えられない。早い決行は大歓迎だった。

 浪司は頷き返すと、こちらに顔を近づけて声を落とした。

「明日の朝、ワシとレオニードが城で騒ぎを起こす。そうすれば、恐らくナウムはお前さんを連れていずみを守りに行くハズだ。後はナウムの隙をついて、いずみから『久遠の花』の知識を奪ってくれ。その後は――」
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