黒き藥師と久遠の花【完】
 一理あるように言ってるけど、単に寝たいだけなんじゃあ……。
 本能のままに動き過ぎじゃないか、この熊オジサンは。

 貴方も何か言ってやってよと、みなもは隣を見やる。
 レオニードも呆れているらしく、いつになく目が据わっていた。

「明日は失敗が許されないんだぞ。抜かりがあったらどうするんだ」

 怒気混じりの低い声に、浪司が「そんな怖い顔するな」とたじろぐ。
 しかし話を続ける気はないと言わんばかりに、立ち上がってクルリと背中を向けた。

「無駄にダラダラと話をするより、もう少しじっくり再会を喜び合うほうが有意義だと思うぞ。……こうやって話せる時間は、限られてんだからな」

 ……ああ、なるほど。そういうことか。
 せっかくだから、このまま彼の好意に甘えさせてもらおう。

 浪司の狙いがようやく分かり、みなもは強張った表情を和らげた。

「分かった、浪司。確かに寝不足で倒れたら困るものね」

「ワシ、眠気と食い気は我慢できんからな。悪いが先に休ませてもらうぞ」
 
 そう言うと浪司は手をヒラヒラと振りながら、焚き火から遠ざかっていく。

「待て、浪司。話は――」

 引き止めようとレオニードがその場を立ちかけた瞬間、みなもは彼の袖を引っ張った。
 レオニードは腰を浮かせたまま、こちらに視線を留める。
 困惑する彼へ、みなもは静かに首を振った。

「俺たちを二人きりにしようと、気遣ってくれたんだよ。……まったく、浪司は変なところに気が回るんだから」

 みなもが軽く肩をすくめると、レオニードは一瞬だけ目を点にしてから、長息を吐き出した。
 
「気持ちは嬉しいが……本当にこれで良いのか、みなも?」

「うん。二人きりで貴方に話したいことがあったから……」
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