黒き藥師と久遠の花【完】
 少し見つめ合ってから、レオニードがこちらと距離を詰めて座り直す。
 間近になった彼を、みなもは無言で見上げる。

 ヴェリシアを離れてから、まだ二週間ぐらいしか経過していない。
 けれど、何年も離れていたような感じがして、ひどく懐かしい。

 会いたかった。
 でも、会うことが怖かった。
 目的のために汚れ続ける自分を見せたくなかった。

 袖を掴んだままの手が震え出す。
 何か言わなければと口を開きかけた途端、みなもの頬を涙が一筋流れた。

「ごめん、レオニード……貴方を傷つけることばかりしてしまって……」

 意思を取り戻したことを隠すためとはいえ、レオニードの前でナウムを相手に娼婦まがいのことを見せつけてしまった。
 あの時に見た、少し視線を逸らして傷ついた表情を浮かべたレオニードが忘れられない。
 
 いくら謝っても許されることじゃない。
 どんな批難でも受け入れなければと、みなもは身構える。

 しかし、レオニードは申し訳なさそうな顔をして、ゆっくり首を横に振った。

「いや、俺のほうこそ悪かった。少しでも君のことを疑ってしまって……ナウムに見せていたあの表情が、演技に見えなかったんだ」

 怒って当然のことをしたのに、まさか謝られるとは思わなかった。
 何度か目を瞬かせてから、みなもは控えめに苦笑した。

「中途半端なことをしたら気づかれるからね。だから貴方にするつもりでやっていたんだ。本人を目の前にして、かなり滑稽な話だけど――」

 話の途中で、こちらの肩に腕を回したレオニードが、強い力で抱き寄せる。

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