黒き藥師と久遠の花【完】
「嫌われたね、浪司」

「ちょっとは親睦を深めてくれてもいいだろ。おにーさん、いじけちゃうぞ」

 どう見ても熊オジサンだろ。
 密かに心の中で突っこんでから、みなもは「そうだ、浪司」と声を上げた。

「お願いがあるんだけど、泡吹き草の新芽を採ってきてくれないかな? 傷薬に使うんだけど、足りなくなってきたんだ」

 浪司はおどけていた顔を、素に戻す。

「別に構わねぇが、どんな草だ?」

「この時期に草むらで生えている、黄緑色の葉に赤黒い茎の植物。見たことない?」

 少し考えて、浪司は手を叩いた。

「あーあー、アレね。知ってるぜ」

 浪司は椅子から立ち上がって背伸びすると、みなもに向かって親指を立てた。

「いっぱい採ってきてやるから、楽しみにしてろよ」

「ありがとう。頼りにしてる」

 足音大きく浪司は部屋を出ていく。
 ぎい、ばたんっ! と小屋の扉が無遠慮に閉じられた後、薬研を挽く音だけが辺りに流れた。
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