黒き藥師と久遠の花【完】
 ナウムに目配せされ、みなもは腰に下げた小さな袋の中から、準備してきた丸薬を取り出した。

「みなさん、これは耐毒の薬です。まったく毒が効かなくなる訳ではありませんが、濃い毒が充満する中でも長く動くことができます」

 みなもは一人一人に丸薬を配った後、ナウムにも「どうぞ」と差し出す。
 だがナウムは小さく首を横に振った。

「オレは自分用の物があるから大丈夫だ。もし城の中で動ける人間がいたら、そいつに渡してくれ」

 飲んでくれれば、こっちも楽に動けるのに。
 心の中で舌打ちをしてから、みなもは「分かりました」と素直に引き下がる。

 部下たちが丸薬を飲み込んだことを見計らい、ナウムは口を開いた。

「今から二手に分かれて行動する。みなも、お前に部下を五人ほど貸してやるから、城の西側を調べてくれ。もし不審者を見つけたら即座に始末しろ」

 ナウムの目から離れられるのはありがたい。この好機、逃す訳にはいかない。
 無言で頷いたみなもの目へ、わずかに力が入る。

 その刹那、ナウムが訝しそうな表情を浮かべる。
 しかしそれは一瞬だけで、すぐにみなもから部下たちへと視線を移した。

 視線を外されて、みなもは密かに胸を撫で下ろす。

(……本当にコイツは目ざといから、油断ならないよ)

 あともう少しの辛抱だと自分に言い聞かせ、ナウムの指示を待つ。

 部下とのやり取りを終えた直後、ナウムが「行くぞ」と駆け出す。
 それに合わせて、みなもと部下たちは彼の後ろをついていった。
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