黒き藥師と久遠の花【完】
表面上は従順な態度を見せているが、その目はいつもどこか反抗的な光を宿している。
跪き、頭を垂れていても、こちらに忠誠など微塵も誓っていない。初めて出会った時から、それは十分に感じ取っていた。
城にいる人間の中で、絶対に気を許すことはできない男だ。
だが、いずみが絡むことに関しては、最も信用できる男でもある。
初対面の頃から気づいていた。ナウムにとって、いずみが特別な存在だということは。
彼女を守るために剣を振るい、彼女にとって不利となることは裏で排除し、有利となることは手段を選ばずに動き――。
すべては、いずみの幸せのため。
だからこそ信用できないこの男を、腹心に据えている。
同じ者を守り続ける限り、それは変わらないだろう。
イヴァンはわずかに苦笑し、前を見据える。
(ナウムのことだ、真っ先にいずみの元へ向かうハズだ。運が良ければ途中で会えるかもしれんな)
恐らくいずみは自室の隠し部屋に潜んでいるだろう。
彼女の元へ向かうなら、玉座の間にある隠し扉を経由するのが一番早い。
いくら毒に耐性があるとはいえ、この非常事態に怯えている姿が容易に想像がつく。
一刻も早く事態を収拾し、いずみを安心させたいと心は焦る。
だが体は思うように動かすことができず、イヴァンの中に苛立ちが募っていった。