黒き藥師と久遠の花【完】
ようやくイヴァンが玉座の間に辿り着くと――。
――部屋の中央に、中背の男が一人立ち尽くしていた。
無精髭を生やしたその男は、粗野な毛皮をまとっており、狩人のような身なりをしている。
明らかに城へ出入りする者の格好ではない。
外からの侵入者だと見なした瞬間、イヴァンは腰の剣へ手をかけていた。
男がこちらに振り向きつつ、剣を抜こうとする。
が、目が合った瞬間、男は剣から手を離し、恭しくその場へ跪いた。
予想外の動きにイヴァンは目を丸くする。
ただ、いくら恭しい態度を取られても、不審者だということには変わらない。
剣を抜いて切っ先を向けながら、イヴァンは男を見下ろした。
「……城に毒を流した不届き者は貴様か?」
敢えてゆっくりと低い声で尋ねる。
大抵の者は萎縮して身を震わせるが、この男は違った。
平然と頭を上げると、男は怯むことなくイヴァンを見据える。
その目は、市井の人間にはそぐわない覇気が備わっていた。
「貴殿の城を荒らすような真似をして申し訳ない、イヴァン王。……城に流した毒は体を麻痺させるもので、命を奪うような代物ではない。そこは安心して欲しい」
不審者の言うことなど信用できない。
ただ、毒を受けている身として、これが命に関わる物ではないことは実感している。
城の人間を殺すつもりなら、こんな中途半端な毒は使わないはず。
狙いが読めず、イヴァンは眉間にシワを寄せて男を睨みつけた。
――部屋の中央に、中背の男が一人立ち尽くしていた。
無精髭を生やしたその男は、粗野な毛皮をまとっており、狩人のような身なりをしている。
明らかに城へ出入りする者の格好ではない。
外からの侵入者だと見なした瞬間、イヴァンは腰の剣へ手をかけていた。
男がこちらに振り向きつつ、剣を抜こうとする。
が、目が合った瞬間、男は剣から手を離し、恭しくその場へ跪いた。
予想外の動きにイヴァンは目を丸くする。
ただ、いくら恭しい態度を取られても、不審者だということには変わらない。
剣を抜いて切っ先を向けながら、イヴァンは男を見下ろした。
「……城に毒を流した不届き者は貴様か?」
敢えてゆっくりと低い声で尋ねる。
大抵の者は萎縮して身を震わせるが、この男は違った。
平然と頭を上げると、男は怯むことなくイヴァンを見据える。
その目は、市井の人間にはそぐわない覇気が備わっていた。
「貴殿の城を荒らすような真似をして申し訳ない、イヴァン王。……城に流した毒は体を麻痺させるもので、命を奪うような代物ではない。そこは安心して欲しい」
不審者の言うことなど信用できない。
ただ、毒を受けている身として、これが命に関わる物ではないことは実感している。
城の人間を殺すつもりなら、こんな中途半端な毒は使わないはず。
狙いが読めず、イヴァンは眉間にシワを寄せて男を睨みつけた。