黒き藥師と久遠の花【完】
「貴様は何者だ? 毒を流した目的はなんだ?」

「今の名は浪司。東方の薬師の一族を守り続けてきた者」

 東方の薬師……すぐにいずみの顔が浮かび、イヴァンは息を呑む。

「まさか、貴様は『守り葉』なのか?」

 浪司は重々しく頷くと、遠くを見るような目をした。

「いかにも。ワシは『守り葉』の使命を果たすため、ようやくここまで来たんだ」

 いずみから『守り葉』の話はすでに聞いている。
 毒を駆使して『久遠の花』を守る者。それが『守り葉』だと。

 イヴァンは苛立ちを隠さず、今にも噛み付かんばかりに歯を剥き出す。

「この国には貴様が守るべき『久遠の花』がいる。それを知った上での行動か!」

 怒声を浴びせても、浪司の表情はピクリとも動かない。
 むしろ熱くなる自分とは対照的に、彼から投げかけられる視線の温度は急激に下がっていく。

「ワシが守るべきは、一族の知識と志。身を守るための毒でなく、毒で相手を傷つけて利を得ようとする者を放っておく訳にはいかん。……それがこの国の王妃であったとしても」

「ワシが守るべきは、一族の知識と志。身を守るための毒でなく、毒で相手を傷つけて利を得ようとする者を放っておく訳にはいかん。それがこの国の王妃であったとしても」

 この国にいずみがいると分かった上での行動ならば、この男の目的は――。
 イヴァンは奥歯を強く噛み締め、剣を握る手に力を入れた。

「……貴様は、俺の妃を始末する気なんだな?」

「いいや、殺すつもりはない。これ以上毒を作れんようにするだけだ」

「殺す気は無くとも、妃を傷つけようとしていることに変わりはない。そして妃の毒は、今のバルディグを立て直すために必要な物……貴様の好きにはさせん!」
< 225 / 380 >

この作品をシェア

pagetop