黒き藥師と久遠の花【完】
 イヴァンは剣を振り上げ、浪司の顔を目がけて斬りつける。
 体を蝕む痺れで勢いは半減しているものの、鋭く空を切る音がした。

 ――ギィンッ!
 素早く浪司が短剣をかざし、刃を受け止める。

 上から力をかけている自分のほうが有利のはず。
 しかしイヴァンが全力で刃を押しても、浪司はびくともしなかった。

 が、不意に浪司から力が抜け、刃が届く前にその場を退く。
 拮抗が崩れ、勢い余ってイヴァンの体勢が崩れそうになる。

 倒れる訳にはいかない。
 王が倒れてしまえば、国そのものが傾いてしまう。
 どれだけ体が痺れていようが、重病を抱えていようが、倒れることは許されない。

 一刻も早く叩き斬らねば……。
 よろけながらも膝に力を入れ、イヴァンは浪司へ再び剣先を向けた。
 
 溢れ出す殺気と怒気を、惜しみなく浪司にぶつけていく。
 それなのに、彼の顔色も態度もまったく変わることはない。こちらから目を背けず、見据え続けている。
 この行いが間違っていないのだと、己を信じて疑わない。そんな印象を受けた。

「誇り高きイヴァン王よ……どうかワシの話を聞いて欲しい」

 ふざけるなと一蹴しかかったが、激情のままに動けば、自分から器の小さな王だと認めてしまう気がする。
 イヴァンは息をついて少し頭を冷やすと、「良かろう、聞いてやる」と話を促した。
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