黒き藥師と久遠の花【完】
 安堵したのか、わずかに浪司が眼差しを和らげた。

「ワシは不老不死を施された『常緑の守り葉』、何百年も一族を見守り続けている。……何度も一族の力を悪用されそうになって、その都度ワシは守ってきた。国を相手にするのは、これが初めてではない」

 不老不死。その言葉にイヴァンのこめかみが引きつる。

 先王――父が死ぬまで求め続けていた秘術。
 単なる伝説に過ぎない。そんな物に心を奪われ、政をないがしろにするなど馬鹿げたことだと思っていた。

 今もその考えは変わらない。
 不老不死など夢物語でしかない。この男は何か狙いがあって嘘を言っているだけだ。その狙いがどんな物なのかは検討もつかないが。

 警戒心を強めながら、イヴァンは注意深く浪司の話に耳を傾ける。

「貴殿のように『久遠の花』や『守り葉』の力を借りて、国を守ろうとする権力者はいた。だが一族を囲ってその力を独占しようとする時は、いつも同じ顛末を辿っておる」

「……同じ顛末、だと?」

「不老不死を抜きにしても、『久遠の花』はその知識と力で未知の病を治す薬を作ることができる。『守り葉』は一族が作った特殊な解毒剤でなければ治せぬ毒を作ることができる。この力を利用すれば、圧倒的に優位な立場になれるんだ」

 浪司は言葉を区切って息継ぎすると、苦しげに顔をしかめた。

「ある国は他国に伝染病の薬を高額で売りつけ、際限なく金を搾り取ろうとした。ある国は、他国の要人に特殊な毒を与え、解毒剤と引き換えに無茶なをことを要求するようになった。……その結果、周辺の国々が追い詰められて、数多の民衆が苦しむ羽目になった」

「我が国も同じ道を辿ると決め付けるな! 必要以上に相手を弱らせて追い詰めるなど、王として恥ずべき所業だ。俺を侮るんじゃない」

「貴殿が口先だけの王でないことは、ワシも疑っておらん。だが……他の要人がイヴァン王と同じ考えを持っているとは思えない。もし貴殿が殺されでもして、志のない者が権力を握れば――」
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