黒き藥師と久遠の花【完】
 本当にレオニードから会話はしない。みなもが話さなければ、延々と黙り続けるのみだ。

 けれど、みなもが薬研を挽きながらレオニードを見やると、何か言いたそうにこちらを見ている。
 今だけじゃない。起きている時は、ずっとこちらを見ている。
 なのに、何も話そうとしない。

 用があるなら言えばいいのに。
 痺れを切らせて、みなもは口を開いた。

「どうしたのレオニード? 言いたいことがあるなら、言ってくれないと分からないよ」

 案の定レオニードから声は返ってこない……と思っていたら、しばらく沈黙した後、珍しく言葉が返ってきた。

「……君は俺の味方なのか? 敵なのか?」

 いきなり何を言い出すのだろう。
 みなもは顔を上げてレオニードを見る。

「少なくとも敵ではないけど……俺を疑ってるの?」

「助けてくれた恩人に、こんなことを言うのはどうかと思うが――」

 レオニードが、真っ直ぐな視線をみなもに送る。
 濁りのない瞳に、自分の心を見透かされているような気がした。

「――どうして時折、仇を見るような目で俺を見ているんだ?」

 みなもの薬研を挽く手が止まった。

 今まで作っていた愛想笑いが消え、冷え切った素顔が露になる。

「よく見てるね。侮れないな」

 立ち上がって椅子に座ると、みなもは体を前に傾けた。

「知りたい、俺のこと?」

 みなもが眼差しを強めてレオニードを見つめる。一瞬彼は瞳を逸らしそうになったが、ぐっとこらえて視線を受け止めた。

「……何者なんだ、君は?」

「そう簡単に教えられないよ。貴方が俺に自分のことを隠したいように、俺にも人に知られたくないことがある。自分の手の内を見せないクセに、こっちには秘密を見せろだなんて、都合がよすぎるじゃないか」
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