黒き藥師と久遠の花【完】
 辺りを見渡して敵がいないことを確かめてから、レオニードは険しくなった目で彼らを見下ろす。
 
(……毒が効いていても、ここまで動ける人間がいるのか)

 自分と同じように、彼らも少なからず耐毒の薬を服用しているのだろう。
 だとすれば、みなもが目的を果たそうと動いた時に、取り囲まれる可能性が十分にある。
 いくら毒を使えるとしても、襲われても絶対に大丈夫だとは到底思えない。

 もし、彼女が傷つけられ、命を落とすようなことがあれば――。

 嫌な想像が頭をよぎり、言いようのない不安が胸を鷲掴みにしてきた。

(一刻も早く、みなもと合流しなければ……)

 レオニードは懐から三角に折られた褐色の包み紙――浪司から渡された自白剤を取り出す。

 これは副作用が少ない。だから相手が廃人になることはないぞ、と浪司から聞いている。
 それでも使うことに一抹の後ろめたさを感じてしまい、躊躇してしまう。

 しかし相手には悪いが、みなもの元へ駆けつけることのほうが重要だ。
 レオニードは最初に蹴り倒した男に近づいて体を仰向けにすると、彼の顔へ白い粉をふりかける。

 とどめを刺されると思ったのか、男は泣きそうな顔でこちらを見上げていた。
 だが、徐々に目は虚ろとなり、瞳から怯えが消えていった。
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