黒き藥師と久遠の花【完】
    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ナウムの部下の中でも年長と思しき男が先頭を走り、「あっちに行くぞ」と城内を案内しながら向かう先を促してくる。
 彼のすぐ後ろを走りながら、みなもは言われるままに「はい」と頷き、チラリと後方を走る男たちを見やる。

 まだこれだけ動ける状態で、自分の意思を取り戻していることに気づかれる訳にはいかない。
 わざとぼんやりした目しながら、みなもは疑われないよう不審者や毒を調べるフリをしていた。

 一階から二階へ上がろうとした時、最後尾の男が急に膝をついた。
 突然のことに一同の足は止まり、彼に注目する。

「おい、大丈夫か!?」

 一番近くにいた者が駆け寄り、しゃがみ込んで男の顔を伺う。
 彼は鈍い動きで首を横に振った。

「駄目だ……体が痺れて、思うように動けない。俺に構わず、先に行ってくれ」

「分かった。悪いが行かせてもらう」

 各々に頷き合い、残った者で二階へ向かおうとする。
 が、動き出した途端に体がよろめき、みなもを残して全員がその場に崩れ落ちた。

 どうやら耐毒の薬と偽って飲ませた毒が回ってきたらしい。
 好機が巡ってきたと騒ぐ心を抑え、みなもは抑揚のない声で話しかけた。

「すみません。お渡しした薬よりも、城内の毒が強いようですね。……私はナウム様からエレーナ様を守れという命を受けていますから、このまま向かわせて頂きます。ここからどう行けばいいですか?」

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