黒き藥師と久遠の花【完】
 しばらく二人は口を閉ざし、互いを探るように視線を交わす。

 フッ、とみなもは薄く笑い、その場に張り詰めていた緊張をほぐした。

「まずは貴方のことを教えてよ。その後だったら、俺のことも教える」

「俺だけに話をさせて、君が話さない……ということも考えられるな」

 みなもは眉を上げながら、肩をすくめる。

「そこは俺を信じて、としか言えないね」

 譲る気はない。みなもの意図が通じたらしく、レオニードは口元に手を置き、考えこむ。それきり押し黙ってしまった。

 いきなり話す気にはなれないだろう。みなもは立ちあがり、レオニードへ背を向ける。

「少なくとも貴方を殺す気はないから、それだけは安心して……気が向いたら、いつでも言ってよ」

 そう言うと、みなもは薬研で新たに挽く薬草を取りに寝室を出ていく。

 少し歩いてからレオニードに聞こえないよう、ため息をついた。

(これで俺に興味を持ってくれて、北方の話を聞けたらいいんだけど)

 きっと彼をこのまま治療しても、知りたい話は聞き出せない。こちらに興味を持ってくれたのを利用して、北方の情報を聞き出したかった。

 もし話してくれなかったら、治療代として話せ、と言ってやろうか。
 あの強面の無表情を、困った顔にさせるのは気分がいい。

(嫌な性格してるな、俺)

 自分に呆れて、みなもは頭を掻いた。

 机に置いてあった薬草を手に取り、寝室へ戻る。と、みなもと同じように、レオニードも困惑した顔で頭を掻いていた。
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