黒き藥師と久遠の花【完】
 確かに、もう一人で生きなくても良いのだから、男装を続ける理由はない。
 しかし子供の頃から男の格好しかやらなかったせいか、女物を身につけることに強い抵抗を感じてしまう。

 よくよく思い返してみれば、隠れ里にいた頃からズボンばかりで、女物は動きづらいからと避けていた。
 そのせいもあってか、女性の姿になるほうが不自然極まりない気がした。

 みなもは視線を反らし、頬を熱くする。

「べ、別に俺は興味ないから、楽しまなくてもいいよ。山で材料を採ったり、薬の調合したりするのに、この姿のほうが楽だしさ」

「じゃあ格好は百歩譲ってそれで良いとしても、未だに自分のことを『俺』って呼ぶのはどうかと思うぞ?」

 珍しく浪司に正論を吐かれてしまい、みなもはたじろぐ。

 格好だけでなく言動も男のものに慣れてしまい、女性のように振舞うことが恥ずかしくてたまらない。
 いつかはそうならなければと思うが、今すぐ自分を変えることが耐えられなかった。

 嫌な汗をかき始めたみなもの横で、レオニードが頷く気配がした。
 ジロリとみなもは隣を睨むと、わずかに唇を尖らせた。

「レオニード……今日の夕食、あの虫を煮込んだスープをご馳走するよ」

「…………すまない」

 そう言うと、レオニードは眉間に皺を寄せて息をつく。
 明らかに不本意そうだが、みなもは気づかないフリをする。
 彼の気持ちも分からなくはないが、もう少しだけ待って欲しかった。
 
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