黒き藥師と久遠の花【完】
 二人のやり取りを見て、浪司が「おいおい」と呆れたような声を出す。

「もう尻に敷かれてんのか。この調子だと、あれこれ理由つけてずっと男の格好を続けそうだぞ。それでも良いのか、レオニード?」

 少し考え込んでから、レオニードは真顔で答えた。

「できれば変わって欲しいとは思うが……このままのほうが良いような気もしている」

「そいつは意外だな。どうしてだ?」

「男装していても兵士たちに手を出されそうになっていたんだ。そんな人間が女性の格好に戻れば、さらに遠慮が無くなって手に負えなくなりそうだ。……俺が見ていない所で襲われでもしたら――」

 ほぼ同時に二人がみなもを見る。
 真剣な眼差しを向けるレオニードとは対照的に、浪司はどこかおどけたような苦笑を浮かべた。

「あー、確かにその心配はあるな。レオニードにぶん殴られるか、みなもの毒にやられるか……どっちにしても、手を出したヤツの身がボロボロになりそうだ」

 やる訳ないだろと言いかけて、みなもはふと想像する。
 ……想像した自分は、無意識の内にちょっかいを出してきた人間へ、容赦なく毒を使っていた。

 これからは『久遠の花』として生きていこうとしている人間が、『守り葉』の毒に頼るのはどうかと思う。
 今度レオニードに護身術を教わってみようかな? そんなことを考えてから、みなもは浪司と目を合わせた。
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