黒き藥師と久遠の花【完】
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
執務室で書類にサインを書き続けていたマクシムは、ふと手を止め、窓の外に目を向ける。
春も半ばを過ぎ、新緑の草木が日に日に色濃くなっている。生命力を感じさせてくれるこの時期が、一年の中で最も好きだった。
北方の長く厳しい冬を味わっているからこそ、余計に嬉しく感じてしまう。
まだ遠くの山々は雪が残り、純白の姿を残している。それが蒼天の空に映え、なんとも清々しい気分にさせてくれた。
こんな日は無性に外へ出たくなる。本当なら馬を駆って野山を走り回りたいところだが、王という立場上、気軽にできることではない。
だから例年ならば今頃は城の裏手にある庭園に出て、気分を紛らわしているところだ。
レオニードを護衛につけて、冗談で彼をからかいながら日差しと緑を楽しむ――数少ない息抜きできる時間だった。
しかし、今年はレオニードがいない。からかう相手がいない分、少し物足りない。
マクシムは口元に苦笑を浮かべた。
(今頃どうしているかな、レオニードは)
真面目なあの男のことだ、休憩も挟まずに黙々と言われたことをこなしているだろう。
どれだけ周りが休めと言っても最後までやり続けるのだ。レオニードのやり方は、見ているほうが疲れてしまう。
半ば呆れながら、少し拗ねたような顔でレオニードを見るみなもを想像して、マクシムは思わず吹き出した。
(みなもは気が強そうだからな。案外、尻に敷かれてうまくやってるのかもな)
そう思った時、胸の奥にあった好奇心が疼いた。
(……見てみたいな、女性の姿をしたみなもを)
隠そうとされると、余計に知りたくなるのが人の性だ。
別に口説いて自分のものにしようとは思わないが、一度気になってしまうと見たくて仕方がなくなってしまう。
ただ、わざわざ呼び出して女性の格好をしろと強要するのは、国の恩人に対してあまりにも失礼だ。
でも一目でいいから見てみたい。
そんなことを考えていると、扉を軽くノックする音がした。
「マクシム様、クラウスです。新しい書類をお持ちしました」
我に返り、マクシムは「ああ、入ってくれ」と命じる。
執務室で書類にサインを書き続けていたマクシムは、ふと手を止め、窓の外に目を向ける。
春も半ばを過ぎ、新緑の草木が日に日に色濃くなっている。生命力を感じさせてくれるこの時期が、一年の中で最も好きだった。
北方の長く厳しい冬を味わっているからこそ、余計に嬉しく感じてしまう。
まだ遠くの山々は雪が残り、純白の姿を残している。それが蒼天の空に映え、なんとも清々しい気分にさせてくれた。
こんな日は無性に外へ出たくなる。本当なら馬を駆って野山を走り回りたいところだが、王という立場上、気軽にできることではない。
だから例年ならば今頃は城の裏手にある庭園に出て、気分を紛らわしているところだ。
レオニードを護衛につけて、冗談で彼をからかいながら日差しと緑を楽しむ――数少ない息抜きできる時間だった。
しかし、今年はレオニードがいない。からかう相手がいない分、少し物足りない。
マクシムは口元に苦笑を浮かべた。
(今頃どうしているかな、レオニードは)
真面目なあの男のことだ、休憩も挟まずに黙々と言われたことをこなしているだろう。
どれだけ周りが休めと言っても最後までやり続けるのだ。レオニードのやり方は、見ているほうが疲れてしまう。
半ば呆れながら、少し拗ねたような顔でレオニードを見るみなもを想像して、マクシムは思わず吹き出した。
(みなもは気が強そうだからな。案外、尻に敷かれてうまくやってるのかもな)
そう思った時、胸の奥にあった好奇心が疼いた。
(……見てみたいな、女性の姿をしたみなもを)
隠そうとされると、余計に知りたくなるのが人の性だ。
別に口説いて自分のものにしようとは思わないが、一度気になってしまうと見たくて仕方がなくなってしまう。
ただ、わざわざ呼び出して女性の格好をしろと強要するのは、国の恩人に対してあまりにも失礼だ。
でも一目でいいから見てみたい。
そんなことを考えていると、扉を軽くノックする音がした。
「マクシム様、クラウスです。新しい書類をお持ちしました」
我に返り、マクシムは「ああ、入ってくれ」と命じる。