黒き藥師と久遠の花【完】
音を立てずに扉を開けて現れたのは、痩身の青年クラウスだった。
肩で揃えた白銀の髪に、湖を凍らせたような薄い水色の瞳。
女性が羨むような白い肌で整った顔立ちをしているが、いつも彼の顔は万年雪を思わせるような冷ややかさを湛えている。
王の補佐官を務める彼の細長い両手は、辞書一冊分はあるだろう紙の束をしっかと持っている。
チラリとマクシムは机の左を見る。そこにはまだ目を通していない書類が二つほど山を作っていた。
思わずマクシムの口から大きなため息が出てくる。
執務とはいえ、こう次々と書類を持って来られるとうんざりしてしまう。
「クラウス、余は少し休みたいんだ。だからお前が代わりに書類に目を通して、署名してくれないか?」
マクシムは悪戯めいた口調になりながら、上目遣いでクラウスの顔を伺う。
これがレオニードなら、思いっきり動揺しつつ断ってくる。
しかし、この男は――。
「無理です、諦めて下さい」
淡々とした調子で、冗談をバッサリ切り捨ててくる。
クラウスとは幼少の頃からの付き合いだが、無駄を嫌う性格は昔からだ。
気軽に分かりましたと言われても困るが、こう反応がなさ過ぎると面白くない。
ムスッとなるマクシムを尻目に、クラウスは「失礼します」とゆっくり書類を机に置いた。
肩で揃えた白銀の髪に、湖を凍らせたような薄い水色の瞳。
女性が羨むような白い肌で整った顔立ちをしているが、いつも彼の顔は万年雪を思わせるような冷ややかさを湛えている。
王の補佐官を務める彼の細長い両手は、辞書一冊分はあるだろう紙の束をしっかと持っている。
チラリとマクシムは机の左を見る。そこにはまだ目を通していない書類が二つほど山を作っていた。
思わずマクシムの口から大きなため息が出てくる。
執務とはいえ、こう次々と書類を持って来られるとうんざりしてしまう。
「クラウス、余は少し休みたいんだ。だからお前が代わりに書類に目を通して、署名してくれないか?」
マクシムは悪戯めいた口調になりながら、上目遣いでクラウスの顔を伺う。
これがレオニードなら、思いっきり動揺しつつ断ってくる。
しかし、この男は――。
「無理です、諦めて下さい」
淡々とした調子で、冗談をバッサリ切り捨ててくる。
クラウスとは幼少の頃からの付き合いだが、無駄を嫌う性格は昔からだ。
気軽に分かりましたと言われても困るが、こう反応がなさ過ぎると面白くない。
ムスッとなるマクシムを尻目に、クラウスは「失礼します」とゆっくり書類を机に置いた。