黒き藥師と久遠の花【完】
 しかし、ある考えが浮かんだ瞬間、マクシムは動きを止めた。

 おそらくこれを伝えれば、十中八九クラウスに反対されるだろう。
 だが逆を返せば、クラウスを説き伏せることができれば、他の者たちも説得できるはず。

 それらしい理由をつけて、民意も味方につければ――。


「マクシム様、いかがなされましたか?」

 こちらの様子に気づいたクラウスが、淡々としながらわずかに首を傾げる。

 しばらく書類を見つめてから、マクシムは「なあ、クラウス」と声をかけた。

「パレードの配役、余が直接選ぼうと思う。今年は特別な年……ぜひ女神となって祝福してもらいたい者がおるのだ」

「そうですか。無茶な話でなければ問題ありませんが……どなたを選ばれるのか、お聞きしてもよろしいですか?」

「ああ。実は――」

 慎重にマクシムは女神の配役を口にする。
 その名を聞いた瞬間、人形のようなクラウスの瞳が丸くなった。

 そして「何を考えているんですか!」と彼には珍しく、感情を乗せた声が発せられた。
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