黒き藥師と久遠の花【完】
 みなもは懐から小さな丸薬を取り出し、口の中で噛み砕く。

 舌に何とも言えぬえぐみと苦味が広がった。

 そして争い続けている彼らの元へと歩み寄っていく。

 こちらの動きに気づいた追手が一人、みなもの所へ迫ってくる。
 すぐさま腰の短剣を抜き、応戦の構えを見せる。一瞬だけ追手は戸惑ったが、すぐに持っていた剣を振り上げた。

 ギィン! 剣のぶつかり合う音が辺りに響く。

 刃がせめぎ合う中――急に追手から力が抜け、その場へ崩れ落ち、悶え苦しみ始める。
 その姿にみなもは驚かず、すぐさまレオニードたちの元へと駆けた。

「レオニード、俺から距離を取ってくれ!」

 反射的にレオニードがみなもを見やり、口を開こうとする。
 しかし目があった瞬間、何かあると察してくれたのか、レオニードは後ろへ跳び引いた。

 入れ替わるようにして、みなもが追手たちに対峙した。

 追手の二人が剣を振り上げ、みなもを斬りつけようとした。


 だが彼らの体は突然硬直し、全身が震え出す。

 そして、その場に呻きながら倒れ込んでしまった。


 目前の惨状に、レオニードが息を呑んだ。

「これは一体……」

「毒だよ。今、俺の体から出ている」

 追手たちが微動だにしなくなったことを確かめると、みなもは懐から白い丸薬を取り出して口に含む。
 その後に何度か深呼吸をすると、己の手の甲を顔に近づけて軽く舐めた。
 特に変わった味はせず、みなもは大きく頷く。

「うん、もうこっちに来ても大丈夫だよ」

 目を見張り、しばらく棒立ちになっていたレオニードだったが、ゆっくりみなもへ近づく。まだ警戒しているらしく、剣は持ったままだ。

 そんな彼へ、みなもは苦笑しながら横目で見つめる。
< 29 / 380 >

この作品をシェア

pagetop