黒き藥師と久遠の花【完】
「レオニードは『久遠の花』って聞いたことはある?」

「ああ。どんな病でも治すという薬師の一族だという噂は知っている。……てっきり噂でしかないと思っていたが、実在したのか」

「知ってるなら話が早い。俺は『久遠の花』を守るため、一族の中で『守り葉』という役目を担っていた。『久遠の花』は薬を極めるが、『守り葉』は毒を極める。要は少し特殊な毒使いだと思ってくれればいいよ。……隠れ里を北方の兵士に襲われて、俺が守るべき花は消えてしまったけどね」

 急にレオニードが申し訳なさそうな顔をした。

「……だから仇を見るような目で俺を見ていたのか」

「ごめん、あなたが襲った訳じゃないと分かっていても、頭の中で割り切れなかったんだ」

 みなもは短剣を鞘に収めると、レオニードに背を向け、桟橋に置いたままの釣り竿を手に取った。

「詳しいカラクリは教えられないけれど、追手はこのまま放置しても大丈夫だよ。今の毒は痺れだけじゃなくて、前後の記憶をあやふやにしてくれる。……俺の力は人に知られたくないからね」

 体を起こしてみなもが振り返ると、レオニードはいつになく真剣な眼差しで、こちらを見据えていた。

「今まで隠していたことを、どうして俺に話す気になったんだ?」

「レオニードが教えてくれたら、俺の秘密も教えるって約束したから……っていうのは表向き。最初は言わないつもりだったんだけど、あなたがコーラルパンジーの話をしたから気が変わったんだ」

 レオニードへ近づいて向かい合うと、みなもは彼の視線を真っ向から受け止める。

「断言できないけれど、バルディグに俺の仲間がいる可能性がある。それを確かめたいけれど、国の軍が絡んでいるなら、個人の力で調べるには限界がある。だからヴェリシアがつかんだ毒に関する情報を教えてもらいたいんだ。これがコーラルパンジーを譲る条件だよ」
< 30 / 380 >

この作品をシェア

pagetop