黒き藥師と久遠の花【完】
「ふもとの町まで行けば、人に紛れて逃げられるわ。それまでの辛抱よ」
いずみがみなもの手を強く握る。温かい手。
なのに、姉の手は震えていた。
(姉さん……)
じっとみなもは姉を見上げる。
怖いのに、一人で逃げたほうが早いのに、こちらの手を引っ張って一緒に逃げてくれる。
それが嬉しくもあり、足手まといになっている自分を許せなくも思う。
(私が姉さんを……『久遠の花』を守らないと! 命をかけて姉さんを逃がすんだ)
奥歯を噛みしめ、みなもは覚悟を決める。そしていずみから手を離した。
「みなも、どうしたの? 早く逃げないと、あいつらに追いつかれるわ」
再び手をつかもうとした姉の手を避け、みなもは腰に差していた短剣を抜く。
「姉さん一人で逃げて。私が囮になるから」
「貴女がそんなことをしなくても――」
「だって私は『守り葉』だから。『久遠の花』を守るのは当然だよ」
みなもはにっかり笑った。
「父さんが言ってた。『守り葉』は命をかけて『久遠の花』を守らなくちゃいけないって。それに……大好きないずみ姉さんが、苦しんでいるのを見るのは嫌だ」
言いながら、みなもは己を奮い立たせる。
いくら『守り葉』とはいえ、自分は非力な子供。きっと兵士たちに見つかれば、力及ばず殺されてしまうだろう。
死ぬのは怖い。
でも姉を苦しませるより、自分が苦しい思いをしたほうがマシだった。
みなもは震える唇を噛みしめ、いずみを見上げる。
すると姉は悲しそうに目を細め、華奢な妹の肩に手を置いた。
「ごめんなさい。小さな貴女に、そんなことを言わせるなんて。でも、みなもは逃げて。私が囮になるわ」
「ダメよ! 捕まったら、どんなひどい目に合うか分からないもの」
「私は『久遠の花』……貴女を生かす道を選びたいわ」
いずみがみなもの手を強く握る。温かい手。
なのに、姉の手は震えていた。
(姉さん……)
じっとみなもは姉を見上げる。
怖いのに、一人で逃げたほうが早いのに、こちらの手を引っ張って一緒に逃げてくれる。
それが嬉しくもあり、足手まといになっている自分を許せなくも思う。
(私が姉さんを……『久遠の花』を守らないと! 命をかけて姉さんを逃がすんだ)
奥歯を噛みしめ、みなもは覚悟を決める。そしていずみから手を離した。
「みなも、どうしたの? 早く逃げないと、あいつらに追いつかれるわ」
再び手をつかもうとした姉の手を避け、みなもは腰に差していた短剣を抜く。
「姉さん一人で逃げて。私が囮になるから」
「貴女がそんなことをしなくても――」
「だって私は『守り葉』だから。『久遠の花』を守るのは当然だよ」
みなもはにっかり笑った。
「父さんが言ってた。『守り葉』は命をかけて『久遠の花』を守らなくちゃいけないって。それに……大好きないずみ姉さんが、苦しんでいるのを見るのは嫌だ」
言いながら、みなもは己を奮い立たせる。
いくら『守り葉』とはいえ、自分は非力な子供。きっと兵士たちに見つかれば、力及ばず殺されてしまうだろう。
死ぬのは怖い。
でも姉を苦しませるより、自分が苦しい思いをしたほうがマシだった。
みなもは震える唇を噛みしめ、いずみを見上げる。
すると姉は悲しそうに目を細め、華奢な妹の肩に手を置いた。
「ごめんなさい。小さな貴女に、そんなことを言わせるなんて。でも、みなもは逃げて。私が囮になるわ」
「ダメよ! 捕まったら、どんなひどい目に合うか分からないもの」
「私は『久遠の花』……貴女を生かす道を選びたいわ」