黒き藥師と久遠の花【完】
絨毯でくぐもった足音を疎らに鳴らし、一行は廊下を進んでいく。
外よりはマシだが、冴えた空気はいつまで経っても消えない。みなもの指先や耳は、冷えて痛みを覚え始める。
早く温かい所へ行きたい。
切実にみなもが願っていると、草の文様が施された扉の前でレオニードが足を止めた。
「ここが藥師たちの作業室になる。あとはコーラルパンジーを渡せば、彼らが解毒薬を作ってくれる」
そう言うと、レオニードは扉を軽くノックし、扉を開けた。
部屋の中から温かい空気と、薬草独特の青臭い香りに出迎えられる。ザガットの店よりも臭いがキツい。
それでもみなもは平然としていたが、レオニードと浪司はむせていた。
大きな部屋の中では十人ほどの薬師が、各々の机で薬草をすり潰したり、紙になにか覚え書きをしたり、天秤で薬を量ったりと慌ただしい様子だった。
扉の音に気づいていないのか、誰も作業の手を止めようとはしない。
「誰か来てくれないか! コーラルパンジーを持ってきた」
レオニードの声を来た瞬間、薬師たちは弾かれたように頭を上げた。
みんな年齢は違うだろうが、一見すると四十代、五十代の中年男性ばかりに見える。
部屋の熱気で白い肌を赤く染めていた藥師たちは、顔を見合わせながら「おお!」と歓声を上げた。
年長者らしき白ヒゲをたくわえた一人の老人が、みなもたちへ歩み寄ってきた。
「よく見つけてくれた。……本当にありがとう」
ずっともどかしい思いをしながら、薬を調合し続けていたのだろう。憔悴しきった顔に、ホッと安堵の色が浮かぶ。
レオニードは荷袋を開けると、コーラルパンジーの入った革の袋を手渡す。
それを受け取ると、老人は「こっちに集まってくれ」と中央の机に他の藥師たちを集め、袋を開けて中身を取り出した。
これで解毒剤が作れると喜ぶ藥師たちを、みなもは目を細めて見つめる。
彼らの仲間が助かるのは嬉しいが、それ以上に羨ましかった。
外よりはマシだが、冴えた空気はいつまで経っても消えない。みなもの指先や耳は、冷えて痛みを覚え始める。
早く温かい所へ行きたい。
切実にみなもが願っていると、草の文様が施された扉の前でレオニードが足を止めた。
「ここが藥師たちの作業室になる。あとはコーラルパンジーを渡せば、彼らが解毒薬を作ってくれる」
そう言うと、レオニードは扉を軽くノックし、扉を開けた。
部屋の中から温かい空気と、薬草独特の青臭い香りに出迎えられる。ザガットの店よりも臭いがキツい。
それでもみなもは平然としていたが、レオニードと浪司はむせていた。
大きな部屋の中では十人ほどの薬師が、各々の机で薬草をすり潰したり、紙になにか覚え書きをしたり、天秤で薬を量ったりと慌ただしい様子だった。
扉の音に気づいていないのか、誰も作業の手を止めようとはしない。
「誰か来てくれないか! コーラルパンジーを持ってきた」
レオニードの声を来た瞬間、薬師たちは弾かれたように頭を上げた。
みんな年齢は違うだろうが、一見すると四十代、五十代の中年男性ばかりに見える。
部屋の熱気で白い肌を赤く染めていた藥師たちは、顔を見合わせながら「おお!」と歓声を上げた。
年長者らしき白ヒゲをたくわえた一人の老人が、みなもたちへ歩み寄ってきた。
「よく見つけてくれた。……本当にありがとう」
ずっともどかしい思いをしながら、薬を調合し続けていたのだろう。憔悴しきった顔に、ホッと安堵の色が浮かぶ。
レオニードは荷袋を開けると、コーラルパンジーの入った革の袋を手渡す。
それを受け取ると、老人は「こっちに集まってくれ」と中央の机に他の藥師たちを集め、袋を開けて中身を取り出した。
これで解毒剤が作れると喜ぶ藥師たちを、みなもは目を細めて見つめる。
彼らの仲間が助かるのは嬉しいが、それ以上に羨ましかった。