黒き藥師と久遠の花【完】
 レオニードが彼らの元へ行き、何か話しかける。
 しばらくして薬師たちが頷きながら、みなもの方に視線を送る。
 どうしたのだろうと思っていると、レオニードが今度はみなもの方へと寄ってきた。

「すまないが、ここで待っていてくれないか? 今から陛下に報告してくる」

 みなもは「分かったよ」頷くと、藥師たちに向かって声を出した。

「みなさん、俺もまだ未熟ですが薬師です。もしよろしければ、ここで解毒剤作りを手伝っても構いませんか?」

 年長者の老人は、にこやかに頷いた。

「お気遣いなく……と言いたいところだが、本当に人手がなくて困っていたところなんだ。手伝ってくれると助かる」

 みなもは「よろしくお願いします」と頭を下げてから、レオニードへ微笑を向けた。

「そんな訳だから、俺たちの事は気にせず行ってきてよ。遅くなっても大丈夫だから」

「ありがとう。では、行ってくる」

 そう言ってレオニードは足早に部屋から出て行った。
 彼の背中を見送ってから、みなもは不敵な笑みを浮かべつつ、浪司に目を向けた。

「……あー浪司、遠慮無く手伝ってもらうから、覚悟してくれよ」

「はぁ、やっぱりかい。まあいいけどな、そのつもりだったし。後から酒でもおごってくれよ」

 調子良く「おごらせてもらうよ」と言いながら、みなもは心で呟く。

(熊なんだから、やっぱり蜂蜜酒だよね。いっそ蜂蜜そのものを飲ませて良いかも)

 浪司には悪いが、こうしてからかえると気が楽になる。
 少し緊張をほぐしてから、みなもは気持ちを切り替え、藥師たちの元へと歩み寄った。
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