黒き藥師と久遠の花【完】
    ◇◇◇◇◇◇◇◇◇

  薬師たちの部屋にある螺旋階段を上がった所にも、作業をする部屋がいくつかあった。その中の一部屋を借りると、みなもは黙々と机の上で薬研を動かし、解毒剤を調合していた。

 浪司には大窯の中をゆっくりかき混ぜてもらい、強壮剤を作ってもらっていた。
 材料が少なくなれば、「面倒くせー」と言いながらも機敏に下へ取りに行ってくれたので、彼の手伝いがとてもありがたい。

 一心不乱に薬草と向き合い続け……コンコン、と扉をノックする音でみなもは我に返る。
 こちらが動くよりも先に、浪司が扉を開けて相手を出迎えた。
 
「おーい、みなも。レオニードが戻って来たぞ」

 呼ばれてみなもは手を止めると、体を起こし、額ににじんだ汗を拭いながら入り口を見る。

「お帰り。意外と早かったね」

 何気なく言った言葉だったのに、レオニードと浪士の目が丸くなっていた。
 そのまま二人で顔を見合わした後、浪司が呆れたように肩をすくめた。

「おいおい、城に着いたのは昼過ぎだったろう? もう夕暮れだぞ」

「え、もうそんなに経ってた?」

 言われてみればお腹も空いてきたし、体が疲労で重くなっているような気がする。
 みなもが背伸びをしていると、レオニードが息をついた。

「すごい集中力だな。……協力してくれるのは嬉しいが、長旅で疲れがたまっているだろ。あまり無理はしないでくれ」

「でも、解毒剤を早く作らないと、手遅れになるかもしれない。弱音は言ってられないよ」

「大丈夫だ。さっき下の藥師から聞いたが、今いる負傷兵の分と予備の分は確保できたらしい。だから今日はもう休んだほうがいい」

 それなら自分が抜けても大丈夫そうだ。
 密かに安堵する自分に気づき、みなもは微かに苦笑する。

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